バランスを取る:石油業界における多方面のニーズへの対応
石油業界の企業は、政府、産業、および家庭など様々な消費者のエネルギー需要を満たし続ける必要があります。それと同時に、ESG(環境・社会・ガバナンス)の目標に対して具体的な成果を示すようこれまでのやり方を大きく変えることが期待されています。変革の鍵は、競合する優先順位をバランスよく調整することです。社会貢献と利益確保のバランスに成功がかかっており、投資家、従業員、そして社会からの信頼を維持するために、その両方が求められています。これは、将来の成長と事業の持続可能性に向けて前進しながら、投資した金額に対してより多くの価値を得ることを意味します。
エネルギー業界全体において、企業は技術革新を受け入れ、効率を高め、成長のための新しい道を見つけ、エネルギー安全保障を確保し、利害関係者の厳しい監視の目を満足させながら、経済性、安全性、信頼性の目標を維持しなければなりません。この困難なビジネス環境をうまく乗り切るため、企業は投資の適切なバランスを見つけて実行し、最も有意義な結果る必要があります。
混乱の克服:激動の時代に生き残る
石油関連企業は現在、この業界でかつて経験したことのないほど不安定な状況に直面しています。2022年に地政学的な不安が生じる前にも、新型コロナウイルスのパンデミックによる深刻な影響がありました。2020年に世界の石油需要は過去最低を記録し、その後2021年には急回復しました。2022年にはパンデミック前の水準を超える勢いで、当面継続的に石油需要が増加すると予想されています。さらに状況を複雑にしているのは、あらゆる業界の悩みの種となっているサプライチェーンの問題です。
石油業界には、常に不確実性と潜在的な不安定さがあると考えられます。消費者需要の増減、価格の変動、そしてもちろん、グローバルサプライヤーなどが供給を停止するかもしれないという地政学的な問題もあり、毎日思いがけない出来事やリスクが生じています。2022年を通してリスクと不確実性はますます大きくなっているようです。
KPMGは、雑誌Drilling Downの中で、2022年以降に石油およびガス関連企業が直面する上位のリスクについて評価を掲載しています。この報告書では、世界の石油の需要と供給の不確実な状況、脱炭素化の取り組みの影響、ロシアのウクライナ侵攻の影響、電気自動車の生産と需要の増加について考察しています。これらの要因に加え、脱炭素化に向けた世界的な取り組みに一貫性がないこと、社会および環境活動家からの圧力の高まり、さらには高齢化し退職する従業員に代わる従業員を採用して確保しなければならない業界独自の経営課題により、かつてない圧力がかかり、厳しい目にさらされるようになっていることも述べられています。
世界的なエネルギー変革の取り組みに関しては、一歩前進したものの、その後二歩後退したように見えます。温室効果ガス排出量削減に向けたエネルギー転換の取り組みは、世界中で政策に組み込まれていますが、一律の対応ではなく、導入スピードは国によって異なっています。ヨーロッパで起きている事が示すように、政治から大きな影響を受けているのです。
世界を形成:変化に対する投資
このような分析により、懐疑的な見方が広がっています。環境保護団体や投資家からは、石油ガス業界が現在の課題を克服し、気候変動対策の目標を達成できる持続可能なエネルギー製品を提供できるかどうかを疑問視する報道が、ほぼ毎日なされています。ただし、確かなことが1つあります。石油関連企業が行う意思決定の重要性は、強調しても強調しすぎることはないということです。
「エネルギーの8割を化石燃料に依存する世界経済から、別のものに切り替えることは、一大事業である」と、エネルギー歴史学者でS&Pグローバル副会長のダニエル・ヤーギン氏(Daniel Yergin)は述べています。同氏は現在エネルギー業界で起きている転換について記した著書「The New Map」を出版する予定です。同氏は、「これらの企業はそのような大規模な転換に要求される、複雑なエンジニアリングマネジメントを得意としている」とも指摘しています。
世界中の政府が効果的な気候変動対策やインセンティブの導入に取り組む中、石油関連企業は、エネルギー転換を促進する新技術やイノベーションに投資するために必要な収益性を維持しながら、変化する需要に対応するためにポートフォリオの精査と最適化を行い、政策に適応し改革する方法を模索しています。しかしながら、テクノロジーをどう組み合わせるべきかという点においては、画一的な解決方法はありません。
昨夏NPRが報じたRystad Energyの分析によれば、ヨーロッパでは多くの企業が太陽光、風力、水素、バイオ燃料などの再生可能エネルギープロジェクトを倍増させています。中国国営石油関連会社3社のうちの1社、中国海洋石油集団は最近、クリーンエネルギーへの支出を増やすと発表しました。ネットゼロの期限である2050年までに同社の生産の半分以上を再生可能エネルギーが占めることになります。マレーシアは温室効果ガス排出量を2030年にGDBベースで45%まで削減することを約束しており、インドネシアは2030年までに29%削減するという目標を設定しています。一方、多数の米国企業が二酸化炭素の排出を防止または回収する技術、CCUS(二酸化炭素回収・有効利用・貯留)に多額の投資を行っています。2023 IEAレポートによると、2020年1月から2021年8月までの間だけでも、産業・燃料転換セクターで、米国の新しい炭素回収プロジェクトが50件近く発表されました。
石油関連企業は、世界中の新しいテクノロジーに対するこれらの投資を行いつつ、既存の設備を効率良くで稼働させるための設備更新、修理、保全を継続的に行う必要があります。これには、油井、パイプライン、貯蔵タンク、およびガス処理施設でのメタン漏れの発見と修復、さらに環境に配慮した機器の設置などが含まれます。
このような変革期に、企業はどの時期で何に投資したら最大限に効果を引き出せるでしょうか。経営目標と環境目標を同時に達成するために、適切なプロジェクトを適切なタイミングで進めるにはどうしたらいいでしょうか。急速に変化する地政学的状況や予測できない異常気象に対応するために、計画をすばやく調整して適用するにはどうしたらいいでしょうか。
未来のための改革:適切な時期に適切な場所に投資
100年の歴史を持つこの業界における改革を成功させるには、厳格な戦略と投資計画を立案し、日々一貫した意思決定を行っていくしかありません。事業が数十年にわたり、何に投資したかということがグローバルに影響する業界では、ある投資(および処分)の判断が長期目標に対してどのように影響していくのかということを、規制当局や投資家から消費者や従業員まで、すべての利害関係者が理解しなければなりません。
Copperleaf®は、この規模の変革には3つのカギとなる要素が必要だと考えています。まず、価値の定義(または再定義)を行い、従来の要素に加えて、社会面および環境面でのメリットやリスクを含む新しい指標を取り入れ、すべての潜在的投資対象の相対的な価値を判断できるようにします。
これまでの意思決定は、安全性、信頼性、費用という基本的な要素に基づいて行われてきました。エネルギー企業は今後、コミュニティ、ガバナンス、脱炭素化、レジリエンスなどの目標も、価値の定義に含める必要があります。
このような定義を行った後に、バリュードライバーを長期的な資本計画と、成果を生む日々の意思決定の両方に組み込む必要があります。そして、最終的に具体的な成果を社内外の利害関係者に対して明確に示さなければなりません。
カッパーリーフのソリューション
カッパーリーフは、20年以上にわたり、アセットマネジメントと投資計画のベストプラクティスにより、エネルギー業界全体で数々の企業を支援してきました。
このシリーズの次の記事では、企業がどのようにカッパーリーフを活用して「価値」を定義し、その「価値」を長期計画や日常業務に組み込むことで、エネルギー転換に向けた投資計画や管理を最適化しているかをご説明します。最後の記事では、クライアントが意思決定分析を活用し、投資計画をもとに、価値を最大化するための長期戦略を推進している事例をご紹介します。